男達のメルブラ

情報室でfalcataの説明書を書いていた僕は、妙な音が聞こえることに気づいた。
いや。音自体はキーボードの打鍵音だから、情報室で聞こえることになんら不思議はない。
問題なのはスピードである。
土砂降りのごとく響くその打鍵音は、すでに一つ一つの音を聞き分けることができない速さに達していた。
(ブラインドタッチ? それにしちゃ、驚異的なスピードだが……。いったい何者?)
音のする方向を見てみると、なんとそこにはうちのクラス詩人さんとK君、それにN君とM君がいらっしゃるではありませんか。
席を離れて彼らのPCを後ろから覗き込んで見た僕は、その光景に目を奪われる。


これは……、メルティーブラッド!?
説明しよう。メルティーブラッドとは、少々特殊な経路を経て世に送り出された、知る人は知ってる格闘ゲームのことである。


連続打鍵音の正体は、詩人さんとK君がキャラクターを操作している音だったのだ。
(はー。これがメルブラか。噂にゃ聞いてたけど、見るのは初めてだな。)
と少々魅入っていたのだが、すぐにその二人がとんでもない技術を有している事に気づく。
普通、こういうゲームをやる時はゲームのコントローラー(ジョイパッドと言う)をPCに繋ぐものだが、情報室にそんなものはないので、二人ともキーボードを使用してキャラクターを操っているのだ。しかもネット対戦機能が無いので、一つのキーボードを共有している。わりと密着。
よくもまぁ、あんなにスムーズに動くもんだ。
いつも教室にいないと思ったら、こんなところで殺し合いを演じてたわけだな。
あ、赤い髪の女の子が連続攻撃してる。


そのうちにふらふらと人が集まってきて、二人の周りには軽く人だかりができ始める。
その後は、参加者交代しつつ軽いゲーム大会とかしていた。
なんとなく微笑ましい。


K君「1番強いのは詩人。2番目が俺。3番目はMだな。ひだち君もやらない?」


と誘われて心が揺れ動く。
あー、だけど、無理無理。絶対勝てないよなー。